AIは小売業に何をもたらすのか。マイクロソフトの事例から見えてきたもの

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1月に開催された世界最大級の流通関連の展示会「NRF2019」に出展したマイクロソフト。レガシーが色濃く残る業界だからこそAIによるビジネス変革の可能性はあふれている。

出典:マイクロソフト

今やあらゆる業態、企業で導入が進むAI(人工知能)。消費者にとって最も身近な業態である小売業も、もちろん例外ではない。

アメリカ・ワシントン州レドモンドのマイクロソフト本社で、リテールインダストリーを担当するシシ・シュリダール氏に、小売業におけるAI活用の最新事例を聞いた。

必要なのは購買データだけではない

シシ・シュリダール氏

マイクロソフト グローバルインダストリーソリューションズ ディレクターのシシ・シュリダール氏。

出典:マイクロソフト

「小売業者はもともと、たくさんの顧客データを持っている。そして、そのデータはAIの“燃料”です」と、シュリダール氏。

確かにPOSレジには、いつどんな人がどんな商品を購入したかが記録されていて、会員サービス等を通じて、より詳細な顧客情報を購買履歴に紐付けることも可能だ。

シュリダール氏は、近年では小売店自身が持っている顧客データ以外にも注目している。

「店舗のある地域の天候や、住人の属性、経済指標、さらにはIoTセンサーを用いた人々の行動データまで、さまざまなデータが容易に入手できるようになってきています。

AIを用いて、こうしたデータを顧客データと掛け合わせて分析・予測すれば、個々の顧客ニーズにあわせたパーソナライズ化や、ターゲティングはもちろん、より効率的な在庫管理や店舗運営が実現できます」(シュリダール氏)

例えば、インテリア雑貨を扱う「Pier 1」では、オンラインショッピングのユーザーデータをAIで分析し、実店舗の運営に活用している。

さまざまなデータと組み合わせる

オンラインショッピングの購買履歴を元に、どの地域の人がどんな商品を購入しているかマッピングしたデータ。このデータやユーザーの属性、経済指標などをもとに、店舗ごとの商品構成を変えているという。

顧客がどこの地域に住んでいるか、どのくらいの世帯収入があり、どういう商品を好むかというデータを地図の上に可視化し、その情報をもとに地域ごとの店舗の商品ラインナップを最適化した結果、店舗の売上が大きく伸びたという。

時間や人によって“変動する値札”も登場

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米マイクロソフトが開発者向けに開発したAIカメラ「Azure Kinect DK」。399ドルで6月27日発売予定。ここまで高度な機能を持たせなくとも、IoTカメラでリアルタイムの人の流れなどを把握することもできるようになってきた。

出典:マイクロソフト

また、最近多くの小売業者で導入されているのが、店舗にカメラやセンサーを設置し、来店者数や混雑状況、ユーザーの店舗内の動きを可視化、分析する取り組みだ。

これらのデータに加えて、そのエリアの天候や、セールの実施など近隣店舗の動向、経済状況などの外的要因を組み合わせて分析することで、「どういうときにどのような人の流れになるのか、かなり精度の高い予測ができるようになる」と言う。

人の流れが正確に予測できれば、それに合わせていつどのくらい店員が必要か、計画的なスタッフの雇用やオペレーションを実現できる。さらに店舗内の空調や照明といったエネルギー利用の効率化や、レイアウトの最適化など、より無駄のない効率的な店舗運営が可能になるだろう。

マイクロソフト本社にある、Executive Briefing Center内には、AIを用いた小売店のイノベーションを紹介する設備も用意されている。

例えば、アメリカのスーパーマーケットチェーン大手の「Kroger」の事例では、センサーやディスプレイを備えたスマートシェルフが、マイクロソフトのAzure AIと連携する。

Krogerのスマートシェルフ

Executive Briefing Centerには、デジタルトランスフォーメーションの事例として、実際の企業の取り組みが展示されている。値札や広告がダイナミックに変化する、Krogerのスマートシェルフも体験できる。

出典:マイクロソフト

状況に応じて値札の表示がリアルタイムに変化する「ダイナミックプライシング」に対応するほか、会員ならディスカウントしたり、ターゲティング広告を表示することもできる。店舗にとっては、広告収入という新たな収入源になる。さらに、スマホの専用アプリで商品をスキャンし、レジで並ばずに商品を購入できる仕組みも提供する。

Krogerではこれらをパッケージ化し、他の小売業者にも展開していく計画だという。

ユーザーの消費行動は変化している

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※写真はイメージです

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「これまでの小売業界のイノベーションのスピードは、他の業界に比べて決して早いとは言えなかった」と、語るシュリダール氏。

小売業は一般的に利益率が低く、大規模なIT投資が難しいというのがその理由の1つと言える。ただ、インターネット通販が当たり前になり、スマートフォンでいつでもどこでも買い物ができるなど、人々の消費行動が変化しており、実店舗の生き残りはこれまで以上に熾烈を極める。

シュリダール氏は「多くの小売店が、生き残るためにはAIが必要だと考えるようになってきている」と話し、「今、小売業界ではかつてないスピード感で次々とイノベーションが起こっている。何十年もずっと同じスタイルでやってきた店舗でさえ、ビジネスのやり方を変えていこうとしています」と、自社技術による小売業の変革に期待感を表していた。

(文、撮影・太田百合子)


太田百合子:フリーライター。パソコン、タブレット、スマートフォンからウェアラブルデバイスやスマートホームを実現するIoT機器まで、身近なデジタルガジェット、およびそれらを使って利用できるサービスを中心に取材・執筆活動を続けている。

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