HTC Vive 仮想現実(VR)システムと嗅覚器を用いた、新しい嗅覚体験技術を紹介!

HTC Vive 仮想現実(VR)システムと嗅覚器を用いた、新しい嗅覚体験技術を紹介!

 ストックホルム大学の研究エンジニアでSCILABの研究チームのメンバーであるReter Lunden によって開発された嗅覚器と、VR環境でのゲーム環境を用いた新しい嗅覚体験技術を紹介します。

概要

 近年、嗅覚に関する研究は目覚ましい進歩を遂げていて、主に行動科学および脳科学の分野で画期的な発見を生み出しています。
 また、嗅覚喪失は進行中の COVID-19 感染の最も強い個別の症状と見なされています。(COVID-19 は、世界的な公衆衛生問題であり、「嗅覚喪失」問題の認知度を高めました。)ウイルス感染後における嗅覚喪失から回復するための嗅覚トレーニングでは、受動的な方法よりも能動的な方法が好まれており、より効果的なリハビリテーションが可能になります。

嗅覚トレーニング

 感染や外傷によって引き起こされる嗅覚障害は、長い間、診断および治療介入の対象となってきました。嗅覚のサンプリングと識別の長期的な反復を含む嗅覚トレーニングは、近年急速に関心が高まっている分野であり、嗅覚喪失患者の回復を助けるための臨床応用が見出されています。
 また嗅覚能力の向上は認知症の改善などの認知能力の向上をもたらす可能性があることが示されています。

嗅覚器について

 嗅覚器(嗅覚ディスプレイ)を用いて、VR 環境で仮想オブジェクトを操作し、ワインを鼻に近づけるように嗅ぐことができます。この VR 環境を活かし、柔軟で再現性のある現実的なシミュレーションを通じて、トレーニング環境に「没頭させる」機会を提供できます。

 手元での動的な香りの出力は、手の動きから生じる自然に発生する乱流を活用し、より現実的な香りの強さと通気性を生み出します。知覚される香りの強さは、鼻と嗅覚ディスプレイとの間の可変距離によって調節されます。

 このように、VR環境と香りの相互作用は、レクリエーション、教育、科学、および治療の分野で新しいアプリケーション領域を開拓することができます。

 嗅覚ディスプレイには 4つの香りのリザーバーがあります。この嗅覚ディスプレイは、バルブの開きおよび閉じる時期を無段階かつ連続的に変化させる可変動弁機構であり、回転式の無段階バルブを使用して香りの大きさとブレンドを制御でき、匂いとVR内のオブジェクトが組み合わされます。

サーボモーター (1 ~ 4) と無段階バルブ (a)
嗅覚器の機能とその気流の制御の図 (b)

ワインテイスティングゲーム

 これまでのコンピュータゲームは、主に目に見えるもの(画面上で動く画像)に重点を置いているため、視覚以外の感覚は存在していませんでした。そんな中で、VR環境での嗅覚を使った新しいゲーム技術が誕生しました。

 ユーザーが仮想ワインセラーでワインの匂いを嗅ぎ、各ワインの香りの推測が正しければポイントを獲得できる嗅覚トレーニングゲーム「ワインテイスティングゲーム」です。VR システムのコントローラーに小さな香りのマシンが取り付けられており、プレイヤーがグラスを持ち上げると香りが立ち上ります。

 ワインのアロマ成分を特定する最初のタスクに続いて、より複雑なブレンドを評価し、プレイヤーがより高度な専門知識に進むにつれてレベルアップします。初心者のユーザーでもディスプレイにすぐに慣れることができ、仮想環境での嗅覚体験に真実味を与え、他のジェスチャをデバイスが提供します。

探索的ユーザー調査

 探索的ユーザー調査は、プレイヤーの行動や相互作用を観察し、没入感、嗅覚を示す可能性と限界を理解するために重要な調査です。この調査のため、仮想ワインセラーによる香りのブレンドの成分を特定して嗅覚のパフォーマンスを評価する VR ワインセラーゲームを行います。

 まずプレイヤーは、仮想ワインセラーに位置し8つのワイングラスを備えたテーブルの前に立ちます。そして、グラスを手に取り、ハンドコントローラーのトリガーを押して匂いを放ち中身を推測します。4つの選択肢がテーブルの上に浮かぶ円の中に表示されるので、プレイヤーはグラスを円に通して答えます。正解の場合は緑色、不正解の場合は赤色に変わる円によって、即座に結果が表示されます。プレイヤーは正解に対してポイントを獲得します。

 HTC Viveハンドコントローラーの開口部から香りの出力を手元に伝達し、手に香りを出力させ、物理的な匂いを合成VR環境にリンクすることで、匂いと鼻に運ばれる物体との間のより自然な関係が可能になります。また、香りの出力が固定位置にある場合でも、ユーザーの動きと減衰による香りの強さの微妙な変調の印象を与えることができます。

調査結果

 プレイヤーの間でさまざまな没入感が認められたという証拠が得られました。また、プレイヤーが同じ匂いでタスクを連続で実行した場合に、推測の正確率は上昇する傾向がありました。これはゲームの中で、ユーザーが嗅覚ディスプレイからの香りの出力との関係を調整し、手を伸ばす、つかむ、嗅ぐというジェスチャーを密接に結びつける嗅覚相互作用を促進する可能性があることを示唆しています。

 なお、より複雑なブレンドほど識別が難しくなることも示されました。

 このように、デバイスが直感的に使用でき、自分の行動に迅速に反応することを認識していて、長期間の嗅覚トレーニングには十分な安定性があることが実証されました。

最後に

 嗅覚器を用いたVR環境でのゲームの世界で、様々な香り、その混合物が提供され、受動的な嗅覚体験から能動的な嗅覚体験へ移行する新しい技術が誕生しました。これにより、レクリエーション、科学的、治療的用途のための嗅覚トレーニングの可能性を明確にし、嗅覚喪失患者の回復に役立ち、人間の嗅覚体験を向上させることができるようになりました。また、ワインの試飲者や調香師の訓練にも使用され、様々な側面での利用が考えられています。

 プレイヤーの動きと判断に基づいた、新しい嗅覚ベースのアプリケーション開発の道が拓かれることが期待されています。

参照URL: https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S1071581922001483