はじめに
独ミュンスター大学が、一般的に「光コンピュータ photonic processors」と呼ばれる光を利用したデータ処理が一般的な電子集積回路では難しいより高速かつ並行して情報を処理できることを示しました。
Light-carrying chips advance machine learning
https://www.uni-muenster.de/news/view.php?cmdid=11463
論文
Parallel convolutional processing using an integrated photonic tensor core
https://www.nature.com/articles/s41586-020-03070-1
●これまでの問題点
処理すべきデータ量が増えていく中で、コンピュータの処理能力を超えてしまうことがあります。効率的なデータ処理は常に重要な項目ではありますが、現在では一般利用が可能かどうかを分けるためより重視されています。既存のデータ処理のネックのひとつとして、電子を利用したハードウェアの限界があります。
●光プロセッサー
現在、一般的な電子プロセッサーに代わる可能性が提案されているのが、光プロセッサーです。光ベースのプロセッサーは、秒あたり10**12~15の処理を可能にするといわれており、GPUなどで処理するよりも大変高速に処理することが可能になります。ミュンスター大学の研究チームが、物理学から発想を得て、ニューラルネットワークで利用される行列の演算用の光ベースのハードウェアを実装しました。
●方法
研究チームはエネルギー効率の高いストレージ要素としてPCMs(物質が状態を変化させるときに温度が保たれる状況のこと)を光構造に組み合わせました。(一般的にDVDなどの光学機器にPCMsは使われています。)PCMsを利用することでエネルギーの供給をしなくても行列の要素を保持することができます。光周波数コムを光源として利用することで、複数のデータセットに対して行列の演算を並行して実行することを可能にしました。この光周波数コムは同じ光チップ上に独立したものとして多様な光波を供給することができ、同時にすべての光波を処理することで高速に計算することができます。
なお、光周波数コムを人工ニューラルネットワークに持ち込んだのは今回の研究チームがはじめてだとしています。
●実験
実験では、CNNモデルが用いられました。光を信号転送に利用することで、プロセッサは波長多重化による並列データ処理を実行できます。これにより、計算密度が高くなり、1つのタイムステップで多くの行列乗算が実行されます。通常は低GHz範囲で動作する従来の電子機器とは対照的に、光変調速度は最大50〜100GHzの範囲の速度で実現できます。
●まとめ
光コンピュータを利用した高速化は汎用性が高く、実用化が進めば今後、多くの人工知能分野での応用が期待されます。