ウィーン工科大学による機械学習を利用した単細胞モデルの再現に基づく生態原理の研究!

ウィーン工科大学による機械学習を利用した単細胞モデルの再現に基づく生態原理の研究!

はじめに
 単細胞生物がどのように目的の場所へ移動するのかをウィーン工科大学の研究チームがAIと物理モデルを利用して明らかにしました。

〇大学公式HP
Reaching your life goals as a single-celled organism
https://www.tuwien.at/en/tu-wien/news/news-articles/news/wie-man-als-einzeller-ans-ziel-gelangt

〇論文
Microswimmers learning chemotaxis with genetic algorithms
https://www.pnas.org/content/118/19/e2019683118

概要

 脳や神経システムが存在しない単細胞生物がどのように目的の場所へ移動するかはこれまで明らかにされていませんでした。今回、ウィーン工科大学の研究チームがAIなどを用いてコンピュータ上で一連の動作を再現することで、単細胞生物の行動原理を明らかにしました。
 

詳細

シミュレーション

 研究チームは単細胞生物と環境の間の物理的相互作用を計算しました。このときの環境とは、化学組成が不均一な液体のことで、食料のもとになるものが十分に拡散されていないものを指します。
 シミュレートされた単細胞は単純な方法で環境下の食料についての情報を処理する能力が付与され、機械学習アルゴリズムを利用して多くの修正・最適化を受けて進化しています。結果として、コンピュータ上で作られた単細胞の動きは、本物の単細胞と非常に似た動きをするようになりました。

chemotaxis 走化性の再現

 バクテリアは受容体を使用して、たとえば酸素または栄養素の濃度がどの方向に増加しているかを判断し、移動方向を決定します。これは 一般にchemotaxis 走化性と呼ばれる働きです。
 走化性を説明できるようにするには、これらの単細胞生物の動きが現実と同様に再現できる物理的なモデルが必要となります。研究チームは、流体内での独立した動きを物理的に可能にする、できる限り単純なモデルを選択しました。作られたモデルは、単純化された筋肉によって接続された3つの塊で構成されています。
 このような単純な接続しかなく神経細胞のネットワークがない場合でも、その「感覚的印象」とその動きを結び付ける論理的なステップは、神経ネットワークと同様の方法で数学的に説明できます。単細胞生物でも、細胞の異なる要素間に論理的なつながりがあり、例えば化学的信号がトリガーとされ、最終的に生物の特定の動きにつながります。

結果

 これらの要素とそれらが互いに影響を与える方法をコンピューター上でシミュレートされ、遺伝的アルゴリズムで調整されました。仮想単細胞生物の移動戦略が世代が変わるごとにわずかに変更されました。目的の化学物質が配置されている場所に移動を向けることに最も成功した単細胞生物は「繁殖」することができましたが、あまり成功しなかった変異体は「死滅」しました。このようにして、何世代にもわたることで、仮想単細胞生物が化学的知覚を標的とされた動きに変換することを可能にする、生物学的進化と非常によく似た制御ネットワークが出現しました。
 ただし、これは知性というよりはランダムなぐらつきの動きのようなものという点に研究チームは注意を払っています。個々が正しい判断を下すというよりも、最終的に平均して正しい方向に導くものとなります。

まとめ

 機械学習アルゴリズムを利用することで、より正確な生物モデルの再現が可能になっています。今後、より複雑な行動でも再現を可能にすることが期待され、様々な分野にも応用できると考えられます。