はじめに
独ケルン大学(University of Cologne)の研究チームが昆虫(ショウジョウバエ)の神経システムがAIコントロールの発展に役立つ可能性があることを発表しました。
※図は下記論文より引用しております。
『Nervous systems of insects inspire efficient future AI systems』
https://portal.uni-koeln.de/en/universitaet/aktuell/press-releases/single-news/nervous-systems-of-insects-inspire-efficient-future-ai-systems
論文
A spiking neural program for sensorimotor control during foraging in flying insects
https://www.pnas.org/content/117/45/28412
概要
独ケルン大学の動物学の研究チームが、現在行っている昆虫の神経システムから生物学的に脳で行われている計算における主要要素の調査研究の結果を、機械学習や人工知能に応用できる可能性を報告しました。
研究チームは昆虫がどのように自己の環境と食物の関係情報を学習しているのかを普段研究しており、特に食物をさがすなどの複雑なタスクを解くために獲得した情報をいかに引き出すのか、ということに注目しています。研究チームは、生物学的スパイキングニューラルネットワーク、スパース計算、およびローカル学習ルールを機械学習や人工知能に使用する利点について報告しています。特に昆虫の「感知した情報」を「脳のメモリ」に転送する方法の応用可能性について発表しています。
動物は複雑で動的に変化していく自然環境で起こる様々な問題に対処するために非常に効果的に動作します。特に環境変化に対応するためにすばやく経験を一般化することができるようになっています。
ケルン大学の研究チームは、ショウジョウバエの食糧探求における行動から神経システムを調査しており、コンピュータモデルを用いて、食物から発生される匂いに対するショウジョウバエの神経システムをの反応を分析しています。今回の研究報告では、ショウジョウバエが経験から有効なにおいの一般化を行うのと同じような方法で、経験を一般化できるコンピュータモデルの開発に成功したことを報告しています。(短い神経インパルスによる感覚刺激の高速かつ並列処理と、学習プロセス中の多くのシナプス接触の同時変更による分散メモリの形成を利用した、としています。)作成されたモデルは、記憶から経験を一般化することで学習させるデータベースを少なくしても、以前に学習したことをもとに、完全に新しくかつ複雑な匂いに適用することができた、としています。
この結果を応用することで、機械学習や人工知能モデルをより効果的なものにできる可能性を指摘しています。
※昆虫の嗅覚系のスパイキングネットワークモデル。(上図)
アンテナの嗅覚受容体ニューロン(N = 2,080)は、揮発性の匂い物質に結合して反応します。同じ(52の異なる)遺伝子受容体タイプを発現するORNは、ALの同じ糸球体に収束します。 52個の糸球体のそれぞれは1つのPNと1つのLNで構成されています。各LNは、すべてのPNと横方向の抑制性接続を形成します。各LNは、すべてのPNと横方向の抑制性接続を形成します。 PNは、多数のKC(N = 2,000)にランダムに接続し、各KCは平均して6つのランダムPNから入力を受け取ります。すべてのKCは、プラスチックシナプスを介して単一のMBONに投影されます。
Hannes Rapp, Martin Paul Nawrot. A spiking neural program for sensorimotor control during foraging in flying insects. Proceedings of the National Academy of Sciences, 2020; 202009821 DOI: 10.1073/pnas.2009821117