はじめに
プラズマのふるまいをより正確に予測できるようなAIが米国エネルギー省の研究チームから発表されると同時に、科学=法則の解明という従来の姿勢に関して一石が投じられています。
New machine learning theory that can be applied to fusion energy raises questions about the very nature of science
https://www.pppl.gov/news/2021/02/new-machine-learning-theory-can-be-applied-fusion-energy-raises-questions-about-very
概要
通常、物理学では、観測⇒理論⇒予測⇒観測というサイクルがあります。これは観測された情報をもとに、理論を構築し、そのもとで予測されるものを提示し、観測することで理論の正しさを確認することを意味しています。
今回、米国エネルギー省のプリンストンプラズマ物理研究所の研究チームによって、AIを利用することで、このサイクルに変化を加えるべきではないかということが問われました。理論による部分をAIに任せ、人間は正確な予測のためにデータからデータへと移動していくことが提案されています。
背景
現在、エネルギーを安全かつ効率的に供給するために、核融合に関する研究が進められています。核融合をうまく行うためには、プラズマのダイナミクスに関する正確な予想が必要ですが、現在ある法則や計算モデルでは十分に対応することができていません。
そのため、機械学習を利用して、最も効率的な核融合の方法を探索する方がよりはやく目的にたどり着けるのではないかと考えられました。
結果
今回、データをもとに学習したAIが惑星の動きを正確に予測することに成功しました。ほかにも、データを与えただけのAIが理論をもとにした予測よりも正しい予測結果を導ていることが示されています。今後、AIを利用することは増えていくだろうとしています。
議論の提起
今回の成功も含め、研究チームは科学の目的がどこにあるかのか、という点で議論する必要があるとしています。科学の目的が自然法則を解き明かすことであるとした場合、今回の手法は利用できません。科学の目的が予測の場合、問題がないということになります。研究チームは、法則を知るよりも、正確な予測を行うことに意味があるとしています。
まとめ
エネルギー省のもとで実用的な研究が主にある研究チームにとっては、より正確な予測ができるほうが実際的であることは明らかです。また、理論的背景が不透明であるからといって、危険をかなり高い確率で予測できるようなAIを利用しないことは現実的な対応とは言い難いです。ただし、一方で理論的な背景が確立していないものには、たえず不安と不安定が付きまとうという問題があります。バランスをどのようにとっていくかは今後先鋭的な問題となりそうです。