ロボットに自律性を実装するための新たな研究を紹介!

ロボットに自律性を実装するための新たな研究を紹介!

 今回、東京大学の研究チームが、高次元カオスのダイナミクスを利用してロボットに人間のような自律的な認知機能を実装するための新しい方法を提案しました。

東京大学公式広報記事(2020/11/11)
『Robotic AI learns to be spontaneous』
https://www.u-tokyo.ac.jp/focus/en/press/z0508_00145.html

論文
『Designing spontaneous behavioral switching via chaotic itinerancy』
https://advances.sciencemag.org/content/6/46/eabb3989

目次

概要

●背景
 一般的に事前定義されたモジュールと制御方法論を使用してロボットの動作が設計された場合、ロボットはタスク固有になり、柔軟性が制限されるという問題があります。そのためロボットが自律的に学習できる機能が求められています。
 
●問題点
 ロボットの制御ソフトウェアは、動的システム(=絶えず変化するものの内部状態を記述する数学モデル)として分類できます。高次元カオスと呼ばれる動的システムの分野があり、動物の脳をモデル化する強力な方法であるため、多くの研究者が注目しています。一方で、システムパラメータの複雑さと、「バタフライ効果」で知られるさまざまな初期条件に対する感度のために、一般に高次元のカオスを制御することは困難であるとされています。

●今回の研究
 記憶想起と連想中の脳活動を説明できるカオス的遍歴(chaotic itinerancy:CI)と呼ばれる高次元のカオスがあります。ロボット工学では、CIは自発的な行動パターンを実装するための重要なツールであるとされています。今回の研究では、高次元カオスによって生成された複雑な時系列パターンのみを使用して、CIをシンプルかつ体系的に実装するための手法が提案されました。
 今回の研究によるアプローチは、認知アーキテクチャの設計に関して、より堅牢で用途の広いアプリケーションの可能性を秘めていると研究チームは述べています。これにより、コントローラーに事前定義された明示的な構造がなくても自発的な動作を設計できるとしています。

●Reservoir computing (RC)
 Reservoir computing (RC)は、動的システム理論に基づいて構築され、今回の研究アプローチの基礎を提供する機械学習技術です。RCは、RNNを制御するために使用されています。ニューラルネットワーク内のすべてのニューラル接続を調整する他の機械学習アプローチとは異なり、RCは、RNNの他のすべての接続を固定したまま、一部のパラメーターのみを微調整します。これにより、システムのトレーニングを高速化できます。
 RCの原理をカオスティックなRNNに適用したとき、自発的な行動パターンを示しました。さらに、ネットワークのトレーニングは、実行前に短時間で行われます。

●展開
 研究チームによると、動物の脳は活動の中で高次元のカオスを生み出していますが、カオスをどのように、そしてなぜ利用するのかは説明されていません。今回提案されたモデルは、カオスが脳の情報処理にどのように寄与するかについての洞察を提供する可能性があります。
 また、他のカオスシステムにも適用できる可能性があるため、神経科学の分野以外にも幅広い影響を与える可能性が研究チームによって指摘されています。

●Reference
Katsuma Inoue, Kohei Nakajima and Yasuo Kuniyoshi, “Designing spontaneous behavioral switching via chaotic itinerancy,” Science Advances: November 11, 2020, doi:10.1126/sciadv.abb3989.